『環境保護運動はどこが間違っているのか?』

今回の新書は再々版であり、初版の出版は1992年である。新書化する際に大きな改定はされていないが、補遺が追加されている。
環境やエネルギーの問題にはエントロピーという熱力学の概念が出てくるので、物理分野の人が本を書いていることも多い。本書の著者も物理畑の人で、物理学会でもゴミ問題などについて発表をしているようだ。

内容的には『環境問題はなぜウソがまかり通るのか』と同じく、リサイクルや環境保護運動の矛盾を指摘することを目的にしている。ペットボトルのリサイクルなど『環境問題はなぜウソがまかり通るのか』とかぶっている箇所もあるが、原子力発電のように本書の方が記述の詳しいテーマもある。復習と補完のために2冊とも読んでも無駄にはならない。

本書ではゴミや(エネルギーのゴミである)熱を「自然のサイクルに戻す」ことが繰り返し主張されている。同時に、自然のサイクルで処理できない物質には高い税金をかけて「生産を抑制すること」が主張されている。ゴミになってから処理に苦労するのではなく、そういうものを作らないようにしようというのだ。
これは非常に合理的な考え方である。なぜならゴミというものは移動経路を完全に管理することはできないため、完全な処理方法が存在したとしてもその経路から外れるものが出てくるからである。特に処理が面倒なゴミは不法投棄されやすいし、そうでなくても洪水や強風などで流出・飛散することもある。作る時点で制限すればこういったことは考慮する必要がなくなる。これは自明のことなのだが、経済的な合理性とは一致しないことが多いため、実現には至っていない。例えば、処理しにくいが安価な材料の使用を止めてしまうと製造コストが上がってしまい市場競争力を失うといったことが起こる。そのため作る側での制限を自由経済市場の自主性に任せて実現することは不可能だろう。
これを実現するにはどうしても政治の介入が要である。具体的には本書にあるように、環境負荷の高い物質の税率を上げるなどの政策をとるということだ。もちろん政策を実現するためには、環境・資源の面からの合理性のために、経済性を少し犠牲にすることを社会全体で容認することが必要だろう。

環境保護運動はどこが間違っているのか? (宝島社新書)
槌田 敦
宝島社
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