『短期集中:振動論と制御理論』

 本書は力学的な振動についてのとても優れたモノグラフ。アマゾンでの評価がやたら高いのも納得できる。副題には『工学系の数学入門』とあるが、むしろ『応用力学入門』の方がしっくりくるように思う。
 タイトルからは工学部機械系向けと思われるかも知れないが、物理学の大学生にもお勧めしたい。力学の授業で強制振動の扱いに引っかかってしまった学生にも、大学の力学に退屈している優秀な学生のどちらにも得るところがあると思う。読みやすいわりに内容はしっかりしていて、しかも2千円未満のお手ごろ価格なのも学生にやさしい。
 本書は力学的な運動とその制御を扱っているが、その中で出てくる周波数応答やインパルス応答などで出てくる応答関数や、固有値解析といった考え方は力学以外の様々な分野にも登場する。実際に多くの学生にとって後々役に立つのは、振動制御そのものよりもこれらの手法だろう。
 特に「応答」という概念は、測定対象に何らかの入力を与えてそのときの出力を測定するタイプの多くの実験において必要になる。例えば、光や電場を使う実験の多くは物質の周波数応答を測定する手法であるし、パルスレーザーを使った時間分解分光ではインパルス応答について理解しておく必要がある。
 個人的には、振動と応答現象の数理は物理系大学院生には必須の知識だと思うが、なぜかこの分野の詳しく参考書はあまりない*1。自分が大学院に入ってすぐの頃にも、実験の理解のために参考書を探したが、納得のいくものはついに見付けることが出来なかった*2。大学の書籍部を眺める限り今でも事情はさほど変わってないようだ。(どなたか物理学科向けにこういう本を書いてくださいな)

短期集中:振動論と制御理論    工学系の数学入門
吉田 勝俊
日本評論社
売り上げランキング: 43120
おすすめ度の平均: 5.0
5 大学生のときに出会いたかった本です
5 中身が濃くてわかりやすいです
5 信じられないくらいわかり易く書かれています
5 看板に偽りなし。実践的実習本
5 実践的技術者の皆様に

目次
振動論のすすめ
自由振動のモデル
固有値解析
無次元化
強制振動のモデル
スケール変換
ハーモニックバランス
複素数
伝達関数
棒立て制御の算術
ラプラス変換
インパルス応答
解析力学入門
解析力学演習
線形化

*1:短く触れている参考書はそこそこある

*2:あの頃に本書を読んでいればもっとマシな修士論文が書けた…かもしれない