一昨年くらいから日本語の非線形光学の教科書が4冊ほど発刊されるている。本書もそのうちの一冊。
非線形光学の教科書には様々なスタンスのものがあるが、本書は特に
(i)厳密な議論は後回しにし、初学者が基本的な概念を早く理解できるようにする.
(ii)量子力学を使わない.
(iii)定量的な議論ができるようにし、式の導出を丁寧に行う.
という方針で書かれている。(本書「まえがき」より)
(ii)にあるように、非線形分極ができる仕組みについても量子力学を使わずに古典物理の現象論で記述されている。つまりミクロな非線形応答現象には深入りせずに、マクロな物理量としての感受率を使って非線形光学現象が説明されている。光についても、量子力学的な「光子」ではなくあくまで「振動電場」として扱われている。これにより、電磁気学の基礎と振動する電場と分極の扱いをそこそこ理解していれば、量子力学の知識が心もとなくても読み通せるようになっている。
それに加えて本書では、現象を定量的につかめるようにと、現象を記述する式はその係数まで丁寧に導出されているので、物理・物質科学の学部以上で非線形光学や非線形分光を真面目に学習したい人が独学に使うのに手ごろだと思う。
一方、本書で触れられている非線形光学現象は、光ヘテロダイン検出やカー効果、誘導ラマン散乱やZスキャンなどなどかなり幅広い。それぞれの説明は簡単なものではあるけれど、自己位相変調やテラヘルツ波といった比較的新しい内容にも触れられているのはうれしい。非線形光学そのものに深入りはしないけれど、手法として非線形光学を利用している人には便利だろう。