『上司につける薬』

読了。困った上司をどうにかするための本ではなく、これから上司になる団塊ジュニア世代を想定読者に書かれたマネジメント入門書である。むしろ「つける薬のない上司にならないための予防薬」だ。しかしこのタイトルにはさらに深い意図があるのかもしれない。
このタイトルに惹かれて本書を手に取る人は、おそらく今現在困った上司に悩まされている人ではなかろうか。実はそういう人は、いずれ同じように部下を困らせる上司になってしまう危険性がある。そういう意味で一見内容と合っていないこの書名は、予防の必要な人の目に止まりやすいという非常に理にかなったものなのだ。
人間は自分が受けたことをそのまま他人にしてしまう性質がある。例えば子供の頃に虐待を受けた人が自分の子供を虐待しがちであったり、いじめられっ子が転校したとたんいじめっ子になってしまったりする。これはたとえかつて苦痛に感じていた関係でも、自分が経験した「在り方」に安心を感じるという心理が働くためだ。逆に言うと、それ以外の「親子関係」や「友達付き合い」を知らないため、他の接し方をしようとすると強い不安を感じるからである。親と子、いじめる者といじめられる者という立場が入れ替わることはあっても、虐待やいじめという「付き合い方」の形は残る。同じ事は当然「上司と部下」という関係にも起こる。人は自分が経験した人間関係の在り方を無意識になぞってしまうので、困った上司しか知らない人はともすると自分自身も困った上司になってしまう。
この罠に陥らないためには常に自分自身の行動を認識して、自分が嫌だった事を誰かにしてしまわないようにチェックしなければならない。このようなチェックのためのガイドラインとして本書はとても良くできている。
個人的には、本書は部下を持つ人だけでなく子供のいる人にも有益ではないかと思う。というのも本書に出てくる「まずいマネジメント」の事例のいくつかは、かつて私の父親が私に対してしたことであり、子供心にも非常に失望を感じたことがあるからだ。父親の働く姿を見たことはなかったが、おそらく職場では部下に疎まれているのではないかと感じたことを覚えている。本書で語られる「良いマネジメント」は、当時の私の理想の父親像と非常によくダブるのだ。

正直に言うと本書の内容にはさほど目新しいものは無かったのだが、私の知る類書の3〜4冊分ほどの内容がうまくまとまっていて、文章も読み易い。ときどき見返して自分をチェックするには最適だろう。また価格も安いので、人にもお薦めしやすい。これまで類書を読んだことの無い人は是非一読してもらいたい。あなただけではなくあなたの家族や後輩達のためにも。