ひさびさに毒

“馬の骨”に投資する米国、無視する日本(2ページ目) | 日経 xTECH(クロステック)

 以前から「こうすればいいのに」とぼんやり考えていた科学技術研究の予算配分法に近いものが、アメリカではとっくの昔にあったらしい。

スモール・ビジネス・イノベーション・リサーチ(Small Business Innovation Research)政策の略です。これは、イノベーションを起こすのはスモールビジネスだという仮説です。

 まず、若き科学者たちに対して具体的な“お題”を与えます。例えば「国境警備に役立つセンサーを作りなさい」などの課題ですね。そして、手を挙げた大学院生やポスドクを3〜4倍の競争率で選別して会社を興させ、最初に約1000万円の資金を与えて半年間研究をさせる。これを「フェーズ1」と呼びます。その中の有望株には、さらに約8000万〜1億円の資金を2年間支給する。これを「フェーズ2」と呼びます。この2年間で今までにないものができたら、「フェーズ3」として、政府が強制調達によって強制的に市場をつくるか、ベンチャーキャピタルを紹介します。

海のものとも山のものとも分からない若き科学者たち、私は「馬の骨」と呼んでいますが、彼らに1億円あげてみようと託すわけです。馬の骨に託す、そこが大事ですね。

 要するに、まずフェーズ1で広く薄く資金を配分して種まきをして、そのなかで芽が出そうなものを選らんで多めに資金と時間を与える。そうして育てて成果が出たら市場創出や出資者探しまで面倒を見る、と。
 大学院生や若手研究者のなけなしの研究費を削って実績があって有名な(馬の骨でない)教授に大型予算を与えることばかり考えているどこかの国とは大違い。

 一方、日本も米国の真似をして1998年に中小企業技術革新制度という日本版SBIRをつくりました。しかし、これはひどいもので、まず補助金の支給候補の実績を問う。しかも米国と違って、SBIRを実行することを各省庁に義務付けていない。その結果、何が起きたかというと、いわゆる中小企業の経営者たちがお金をもらうわけです。大学院生やポスドクのような若き科学者には実績なんてないのですから。結局、日本版SBIRは、科学者を起業家にするどころか、「上から目線」の単なる中小企業助成制度になってしまった。

 で、予算をもらった中小企業の経営者は研究や開発で成果を上げることにはさほど注力せず、その金で研究者という名目の社員を雇い、業務に使える設備や機材をダダで導入できたと喜ぶ。まさに中小企業助成金
 たとえ何も成果を出せずとも(それどころか開発する機器の部材そっちのけで無関係な設備ばかり買っていたとしても)、それっぽい報告書をでっち上げておけば済んでいた。報告書を見るのは、文系役人やら大企業からの出向者といった、科学知識の不足でデタラメがあっても見抜けない人たちだったように思う。実際、視察にやってきたある大企業からの出向者のオジサンは、開発中の装置だと見せられた組み立て中の「製品」を満足げに眺め、自分が大企業に勤めていることをひとしきり自慢して帰って行った。
 さらに、そんな何も達成できなかったプロジェクトでも、「(予算を受けたという)実績」になるため、次の予算獲得がさらに有利になるいう…。
 最近はマシになっているようですが、少なくとも当時の自分には「自称」科学技術立国のカガクギジュツ政策はそんな風に見えた。

日本はそのような若き無名の科学者たち「馬の骨」を信頼できなかった。結果的にSBIRという国のお金を「実績のある中小企業」にばらまき、国税をドブに捨ててしまった。

大学発ベンチャーへの投資について)
残念ながら結局のところ、全部失敗しました。なぜかというと、大学の先生にあげるからです。先生にあげたら研究費に使うに決まっているではないですか(笑)。

 現場感覚で同感。