『ねこ耳少女の量子論~萌える最新物理学~』

竹内薫原作の「素粒子論のための量子論入門」コミック。作画のレベルが高い*1のに価格がたった500円というのには驚いた。マンガそのものもなかなかのクオリティで、中高生に買ってもらいたいという意気込みを感じる。

ねこ耳少女の量子論~萌える最新物理学~
竹内 薫 藤井 かおり 松野 時緒 (漫画)
PHP研究所
売り上げランキング: 29

本書では量子論の概要が易しく解説されているが、普通の中高生にとってはまだ十分に簡単とは言えないかも知れない。特に説明のペースが少し速すぎるように思う。もしかすると昨年のノーベル賞の話題(素粒子)を入れるために詰め込み気味になってしまったりページの都合で省略せざるを得なかったのかも知れないが。
なので読者もたとえ理解できなくても、よく分からない説明はそういう演出*2だと思って適当に流して、普通のマンガとして楽しめばいい。もちろん書かれている内容はフィクションではなくてちゃんとした物理学なので理解できればそれに越したことは無いが、まずは雰囲気だけ感じ取ってちょっと気になる箇所だけ後から読み返せばいい。著者もおそらくそういう読み方を想定して書いているのではないかと思う。

本書のように厳密さを犠牲にして分かりやすく(読者に嫌われないように)書かれた本に対しては一部の偉い人達がアレコレ文句を言うかも知れないが、個人的には歓迎したい。もちろん科学的に明らかな間違いがあっては困るが、物理に触れる機会のなかった人達に受け入れてもらえる本はもっと必要だと思う。
難しいことを難解に書いてふんぞり返っているのは自由だが、そうやって国民への啓蒙を怠ってきた結果が回りまわって理科離れ・理系の地位の低迷・非効率な予算配分につながっているように思えてならない。

ちなみに物性屋としては、原子や光子の量子力学の話題がほとんど無かったのはちょっと残念。竹内薫氏の専門(素粒子論)以外の分野でもこういった本が出版されることを期待したい。

なお、今のところ本書の売り上げはなかなか好調らしいで近いうちに続編が出るかもしれない。

*1:中身の作画も表紙と同等以上のレベル

*2:ライトノベルによくある、複雑怪奇な専門用語の羅列のアレ