『コピー用紙の裏は使うな!』

良い本だと思うし、「コスト削減は実は楽しい」という主張は納得できる。しかし、読んでいてどこか空々しいものを感じた。それは、コスト削減が楽しくなるための大前提についての説明が不十分だからである。

「コスト削減」を言い出すのはたいてい経営陣であるが、それを実行するのは主に従業員である。コスト削減を楽しいものにするためには、この両者の間に信頼関係がなければならない。言い換えれば「会社のため=自分たちのため」という気持ちを持っていることが必要である。そうでなければコスト削減の掛け声は、「経営陣の取り分を増やすために従業員に不便を強いる」不愉快な命令に成り下がってしまう。
念のために言っておくと、本書には、成功のための5項目のひとつに「コスト削減の結果を評価して、節約できた分を経営・従業員で分け合おう」とちゃんと書かれている。コンサルタントは顧客である経営者の目線に偏りがちであることからすれば、著者がこの点を重視している点は素晴らしいことだと思う。だがそれでもやはり物足りない。重要性から考えればもうちょっとページを割いて強調して欲しかった。結果をシェアするという事は、5つの項目の1つではなくさらに優先順位の高い前提条件なのだから。
コスト削減に限らないが、従業員の立場からすれば「会社からの指示・命令が自分たちの利益につながる」と感じられることは非常に重要なことである*1。「がんばってコスト削減してもどうせ上がピンはねするだけ」だと従業員が思っている組織では、どうやってもコスト削減など進むわけが無い。むしろ、コスト削減の「命令」は従業員の怒りを買うだけだろう。
本書で主張されている楽しいコスト削減は、経営と従業員の間に基本的な信頼関係があって始めて成り立つ。信頼関係の壊れた組織は、コスト削減を掲げる資格など無い。従業員にボールペンや電気代の節約をさせる一方で、浪費家の役員が不当に高い報酬を得ていたり、出張と称して観光旅行に行っているようでは、従業員が「腹いせ」に無駄遣いをするのをとめることは到底無理だろう。
会社(経営サイド)に対する不信感はあらゆるコストの中で最大のものになりうる。

*1:もっとも、クビにされないためにコスト削減に励む場合もあるだろうが