http://diamond.jp/series/yuuai/10008/
記事では主に文系の博士の苦しい経済状況*1が述べられているが、途中でなぜか日本「科学者」会議の事務局次長の発言が出てくる。この内容がかなりおかしい*2。
日本科学者会議事務局次長はこう懸念する。
「今のままでは、高学歴の若手研究者がどんどん使い捨てられてしまう。これは、本人のキャリアの問題にとどまりません。親の教育投資が無駄になるばかりか、税金の無駄遣いにもつながる。我が国の学術の発展そのものにも、決定的なダメージを残すはずです」
同会議では、現在の科学技術政策の根本的な見直しと同時に、具体的な解決策を提案している。
ほうほう、それで。
「授業料の免除や奨学金など、大学院生に対し欧米に劣らない経済支援を行うこと」「学術と教育に対する公的資金を欧米並みに増額し、大学教員などの増員を図って若手研究者が定職に就けるようにすること」
などを国や自治体に提言していくという。対処療法に終わらない、政策的な展望が必要だ、と上野さん。
……
はぁ?
記者の書き方が悪いせいかもしれないけど、文面からは何を言ってるのかさっぱり分からない。
まず、学生への経済支援は(これはこれで必要だとは思うけど)若手博士の活用とは全く関係が無い。と言うかむしろ逆効果だろう。安直に奨学金や支援金を増やせば、安易に進学する学生や、支援金目当てに進学をそそのかす教官が増える。これではさらに博士が増えて職不足が悪化するだけだ*3。
さらに、公的資金を増額して大学のポストを増やすとある。大学がどれくらい人手不足なのかは詳しく知らないけど、この少子化の時代にポストを増やすのは果たして妥当なのだろうか*4?そもそも「職が不足しているから税金を使って職を作る」ってのが対症療法でなくて何なのか。
「大学は人手不足で、それを改善する」という目的で増額を求めるなら分かるが、大学での職を増やすために税金をつぎ込むというのでは、土木事業者の雇用を守るために無駄な道路を作るのと同じではないか。これが税金の無駄遣いでなくてなんなのだろう?
その場しのぎに職をでっち上げる前に「なぜ最高レベルの教育を受けた(はずの)博士が活躍できる場が無いのか」をもっと深く考えるべきだと思う。活躍の場を提供しない社会が悪いと嘆くだけではなくて、大学院での指導が本当に優秀な人材を生み出しているのかも含めて。(実際、アメリカの博士は専門外のいろんな分野で活躍していると聞きますよ?)
それにしても、いくら何でもこの発言はガッカリ過ぎる(引用元はあるのだろうか?)。本当にこんなのが日本科学者会議で共有されている見解だったらエラいことだと思う。博士問題にかこつけて大学に金を引っ張ってこようという本音があったにしても、普通はもう少し上手く隠すよ…ねぇ。
「経済的な成功なんて最初から求めてない。だから大学の同級生が会社で出世していたって、うらやましいとも思わない。僕はただ、自分の研究を続けてゆきたい——それだけなんです」
ある非常勤講師はこう心情を吐露した。
「だから低収入でも満足です」と続いても良さそうなものだけど、文脈からすると、「それだけなのに、どうしてそれが叶わないのでしょうか?」的なニュアンスなのだろう。けれど、「自分の研究を続けたい」というのは「ずっと音楽を続けたい」というのと同じ。研究活動は別に崇高な活動というわけではなく、むしろ趣味に近い。
もちろん「やりたいことをやって暮らしたい」と思うのは普通のことだし、そうなれるように工夫していけば良いと思う。そこに自己犠牲の精神や悲壮感は必要ない。
優秀な研究者を支え、育てる仕組みが失われようとしている今の日本。病院が壊れかけているように、大学もまた崩壊の危機に直面している。
病院の事情はよく知らないけど。大学が時代にミスマッチなまま硬直した体制をとり続けるなら崩壊するのも必定かと。