ハカセ、派遣します

以下の議論を読んであきらめと絶望を感じた。
博士と派遣とベンチャーと
博士派遣社員 : 5号館を出て
http://www.mumumu.org/~viking/blog-wp/?p=642

大学に関わりをもつ身として現状が非常に深刻であるのは同感する。この問題にあまり深入りしては博士論文を書くモチベーションが消失する恐れがあるので、今は突っ込んで調べる気はない。また、大学院生の環境は研究室ごとのバラツキが大きいのでひとからげに言うことも難しい。なので、以下に書いたこともあくまで個人的な経験に基づく感想に過ぎないので悪しからず。(そのうちデータの裏付けをとって考え直したいとは思うが)


ここ数年博士課程に進む学生が増えていらしい。自分の研究室の後輩たちについてもそれは言える。就職難の時代ならともかくなぜ今進学者が増えているのだろうか?
いろいろ理由はありそうだが、個人的には、修士課程のレベルが低がっていることも博士課程進学者の増加の理由のひとつであると考えている。これは一見矛盾するようだが、修士での研究に不完全燃焼感をもつ学生が「こんなはずじゃない」と感じて博士課程に進学しているケースは実際にある*1

ここで「修士課程のレベルが低下している」というのもあくまで私の主観であって信用できるデータがあるかどうかは知らない。しかし、私自身はそう考えている。その理由は、日本の大学で約10年前に行われた大学院の重点化にある。大学院の重点化では大学院生の定員を大幅に増やしたにもかかわらず、教育環境はさほど改善されなかった。これが日本の大学院教育のレベル低下を招いた。

大学院重点化政策は、日本の博士号取得者の人口比率がアメリカに比べて低いことに危機感を持った政府が、学位取得者の増加を計って始めたと聞いている。しかも大学院重点化が始まった時期はちょうどバブル崩壊後の就職氷河期に当たり、就職難も進学に拍車をかけた。うがって見れば就職できない大卒者を収容して失業率を下げることも大学院の定員増加の目的であったとも考えられるかもしれない。

こうして無計画に学生の数を増やしたことが大学院の教育の質を荒廃させた。定員の増加は、大学院入学を容易にして学力の低下を招き、増えた学生に教官の指導が行き届かなくなり、学生一人にかけられる研究費も減ってしまった。結果として大学側の指導能力の低下を招いてしまった。もともと意欲のあった学生は、このような状況に満足できずよりレベルの高い研究を望んで進学を選んだ。また、就職難が続いていたことも無視できないだろう。

その結果博士号取得者が急増した。これは本来なら政府の目的が達成された喜ばしいことのはずである。ところが現実はオーバードクターの就職難が起こり、政府はまたしても場当たり的な手段をとった。つまりポスドクの増員である。ポスドクは2年ないしは5年の任期の一時的な身分に過ぎないため、ポスドクの増員は問題の先送り以外の何者でも無い。その結果は周知の通りである。


…疲れたので今日はここまで。

*1:と言うか私がそう