『漢文の素養』

『漢文の素養』を読了。タイトルから漢文の解説書と思われるかもしれないが、実際は「漢文」を軸に日本の政治・文化の歴史を解説した本である。『貝と羊の中国人』を読んで「著者買い」した本書だったが、期待に違わず非常に面白かった。なんせ、のっけからしてこうなのだから。

かつて漢文は、東洋のエスペラントであった。

中国から伝わった漢文は、当初はデザインや模様としての意味しか持たなかったが、やがて国際語として実用性を持つようになる。さらに、漢文は語彙や文法の変化が少ないため、漢文を読めるようになれば古くからアジアに蓄積された知識を容易に得ることができた。実際、二千年以上前に書かれた「論語」などもほんの数十年前まで教養として重視されていたし、現代でも「孫子」を愛読する経営者は多い。
かつてアジアの国際語であった漢文は時代とともに概ね衰退したが、日本では、やまと言葉と融合するなどしつつ独自の発展を遂げた。さらに、江戸時代には訓読法が普及したことで、武士から上流町人の間で漢文ブームが起こり、国民の知的レベルが高まった。著者の意見は、これが日本が明治維新民主化をアジアで一番早く成し遂げた一因であるという。

本筋からはやや外れるかもしれないが、面白かったのは、中国と日本が千年以上前から政治的に疎遠ながらも文化や経済で交流していたということだ。どうやら「政冷経熱」は今に始まったことではなさそうである。