午前中はまず後輩の実験の手伝い。装置の準備と手順の説明をして、自分は昨日書きかけた手順書を進めた。ときどき実験の様子を見に行って、トラブルがあるときに少し手伝った。
昼前に別のプロジェクトについてのショートミーティング。その後は、出荷前試験中の装置についての改良意見を検討して実装方法を考えた。夕方、昼前のミーティングのプロジェクトで採用した開発ツールのベンダの技術営業との打ち合わせに参加。余計なことを言わないように我慢してただ傍聴者に徹した。
このプロジェクト、自分もメンバに加えられているらしいが、これまで一度も打ち合わせに呼ばれたこともなければ計画書などの情報ももらっていない。これを幸いに、今回は下手に好奇心を出して首を突っ込んだりせずに、傍観者を決め込んできた。
噂に聞く限りでは、このプロジェクトは社外の2つの組織との共同プロジェクトで、大枠としては既存の装置をまとめて一体化した製品を開発するというものらしい。さらにそれと並行して新機能を備えたセンサ素子の開発もテーマになっているようだ。
ソフトウェアの開発案件としては、一体化した機構要素を整合性を持って制御するための制御・計測ソフトウェアの開発ということになる。率直に言ってとりたてて困難な開発案件では無いと思うが、プロジェクトの責任者とリーダーがあまりにも無責任かつ無計画なため、完遂できるかどうかは非常に怪しい。
責任者もリーダーも二人ともソフトウェアについてはズブの素人だが、社内のソフトウェア技術者に意見を求めたり、立案や設計を依頼したりといったことはしてこなかった。そのくせ開発ツールだけはどこかで勧められた製品にさっさと決めてしまった。ちなみに開発を担当するのはソフトウェア開発も未経験の新人が一人だけで、当然彼にその開発ツールの経験は無い。自分もほとんど経験の無いツールなので自信を持っては言えないが、こんなやり方はリスキー過ぎる。
未経験のツールでいきなり素人に開発を全部丸無げするだけでも十分過ぎるほど不安なのに、さらに開発期間の見積りが恐ろしく甘い。大方誰かに「この開発ツールを使えば誰でもあっと言う間にプログラムが組める」とでも言われたのを鵜呑みにしたのだろう。
「誰でも簡単」という謳い文句を信じている方が、真っ当なソフトウェア技術者による現実的な見積りや計画を聞くよりも心地良いのは確かだろう。社内のソフトウェア技術者が無視されてきた理由のひとつにはこのような現実逃避があったように思う。
ところが最近になってリーダーあたりが夢から覚めつつあるようだ。ここ数日、このプロジェクトに絡む質問を受けることが増えてきた。こちらとしては、これまで無視してきおいて今さら知るか言う気持ちもあるし、そちらで出来ると踏んで立てた計画なんだから最後まで責任持てよと言いたくもなる。
そして何より参加をためらわされるのは、この会社の体質では、仮に自分が参加して完成させたとしてもまともな評価など得られないと予想できることだ。むしろ下手に上手に完成させてしまったら、むしろこれまでやってきた(今回のプロジェクトよりずっと難度の高い)仕事に時間がかかっていることを責められる可能性すらある。
こんな風に悪い予想をしてモチベーションを下げているといいうことは、技術者として腐りかけているという証拠で、自分でも良くない傾向だとは思う。だが、これまで何度も味わってきた失望をまた味わうというのもゴメン被りたい。

そういう訳で、このプロジェクトについてはどう関わるべきか決め兼ねている。ぶっちゃけ、自分が参加して成功させるよりも、無関係のまま破綻した方が個人的には得をする(と言うか心情的に損をしないで済む)公算が大きい。もちろん一人の技術者としては、自分が腕をふるって仕事を完成させたい気持ちはあるし、右往左往している新人のソフトウェア担当者も気の毒ではある。

なやましいことだ。