『ナノカーボンの科学』

フラーレンの研究者としてナノカーボン研究に従事してきた著者によるナノカーボン発見の物語。
ナノカーボンの物性の説明よりも、その発見の経緯に重点をおいた内容になっている。むしろ『ナノカーボンの物語』などのタイトルの方がしっくりくりかもしれない。それゆえに物理や科学の前提知識があまりなくても読むのにさほど苦労しないと思う。
本書では研究に関わった科学者の様子が具体的かつドラマチックに描写されているが、これは彼ら*1と直接の知己であり、かつ当事者でもある著者なればこそである。その一方で、本書には発見のなされた日や論文の投稿および受理の日付がかなり細かく記載されている。それゆえ、科学者による科学読みものというよりも、むしろサイモン・シンの『フェルマーの最終定理』のような、ジャーナリストもしくはサイエンスライターによるドキュメンタリーのような印象を受けた。

特に物理・化学・物質科学系の学生にお薦めしたい。研究に対する意欲がかきたてられること請け合いである。

なお、タイトルには「ナノカーボン」となっているが、多くのページは著者の専門であるフラーレンに割かれており、カーボンナノチューブについての記述は全12章中の2章と少ない。ナノチューブについての読みものとしては、発見者である飯島澄男博士の『カーボンナノチューブの挑戦』がお薦め。

ナノカーボンの科学 (ブル-バックス)
篠原 久典
講談社 (2007/08/21)
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*1:女性科学者は登場してなかったと思う