『中国雑話 中国的思想』

掛け値無しに面白い。
後宮小説』『墨攻』『泣き虫弱虫諸葛孔明』の酒見賢一の中国雑話集。横山光輝の『三国志』やカンフー映画に熱中したことのある人(つまりほとんどの日本人)には是非お薦めしたい一冊。

本書を読んで、日本人が知っているつもりの中国史に意外な誤解があることを思い知った。なにせしょっぱなから

思うに劉備がいちばんわるい。

で始まるのである。それもバカ息子に跡を継がせて蜀を滅ぼした、というのではなく、まったく別の意味で著者は劉備にやりきれなさを感じると言う。(詳しく実際に本を読んでいただきたい)
他の章も同様に、少しくらいは知っているつもりの中国の人物・思想の意外な事実がつぎからつぎへと出てくるのでとても面白い。こういった知識は中国人と話す時にも役に立つかも知れないが、それより知的好奇心にビンビンくる。

本書で取り上げられているのは次の8つのトピック。それぞれ独立しているので好きな順番で読める。

  1. 劉備
  2. 仙人
  3. 関羽
  4. 易的世界
  5. 孫子
  6. 李衛公問対
  7. 中国拳法
  8. 王向斎

8個は少し物足りない気がするかも知れないが、そのかわり各トピックがとても充実していていずれも読みごたえがある。
内容の充実ぶりから著者が大量の史実を読みこなした上で書いていることは想像にかたくないのだが、資料の列記に終わらず、端々に挿入されるエピソードが読みやすい小説仕立てになっているのはさすがに小説家と言うべきか。

是非続刊を期待したい。

中国雑話 中国的思想 (文春新書)
酒見 賢一
文藝春秋
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