『国家の品格』

国家の品格』は、「2006年、読んで良かった本」の現時点での1位に挙げたい。
著者は数学者の藤原正彦氏。講演をもとにしているためか、軽い語り口で読みやすい。日本の精神の価値の再発見と急速にアメリカ化する日本に対する警鐘がを軸にいくつかの主張がまとめられている。特に印象深かったのは「論理だけではなく情緒が重要」、「武士道精神の復活」という主張だ。
著者は論理だけでは不十分だと主張する。論理の出発点は仮説でしかなく、最初に立てた仮説によって論理の帰結は全く違ったものになるからだ。仮説を正しく選ぶには情緒が大切で、そうでなければ論理展開が正しくともおかしな結果が導き出されてしまう。しかし、一方で情緒というものは揺らぎやすく、えてして身勝手さや卑怯さになってしまう。この歯止めとなるのが「武士道」である。武士道というのが大袈裟ならば、これを「情け深さ+潔さ+気高さ」と考えても大きな違いはないだろう。
「こんなことをすると格好悪い」「こんな卑怯なことはしない」といった美意識があれば、「誰も見てないからいいだろう」「みんなやっているから構わないだろう」といった姑息な考えに流されることはない。著者は今こそ武士道精神を復活させ、日本が世界の模範となるべきだと言う。
本の帯にもあるように、戦後60年を経てなおアメリカ従属から脱却できない日本人に自信を与えてくれる本である。読み終わった時、よくぞ言ってくれたと喝采を送りたい気分になった。

国家の品格