『眠りにつく太陽』

 率直に言ってひどい手抜き本という印象。
 「温暖化の原因は二酸化炭素ではなく、太陽活動の低下で宇宙線が増えて雲が減ったから」というのが著者の考えらしい。この仮説の真偽はともかく、その結論に至るまでのロジックがあまりに雑。
 何章にもわたって何度も「温暖化の原因は本当に二酸化炭素の増加なのだろうか?」と疑問を呈しておきながら、「私は違うと考える、なぜなら…」という著者の考えがなかなか出てこない。
 最後の方でやっと「空気中には二酸化炭素は0.04%しかない。だから影響は同じ温暖化ガスである水蒸気よりずっと小さいはず(水蒸気のパーセンテージは書かれていない)」という定量性を無視した議論が出てくる。
 一方、著者が太陽活動の低下が温暖化の原因とするロジックは、「太陽活動が低下すると太陽の磁気が弱くなり、その磁気ではねとばされていた宇宙線が地球に降り注ぐようになり、大気に入射する宇宙線が増える。大気中の宇宙線が増えると、宇宙線によってイオン化される大気中の分子も増える。イオンは雨滴の核になり雲を雨粒にして降らせるので、イオンが増えると雲が減る。雲が減れば地表に届く太陽光が増えて気温が上がる」というもの。
 この仮説は理屈としては破綻していないように思えるものの、本書中では定量的な評価がほとんどなされておらず、あくまで仮説の域を出ていないように思える。
 もちろん自由に仮説を立てるという営為は科学において大切なものだけど、真偽を検証するプロセスがなくては科学にはならない。宇宙線の増加が雲を減らすというのであれば、少なくとも宇宙線の量と雲の量の相関くらいは確認する必要があるのではなかろうか。

 科学的な文書として読むなら、いまいちな出来の修士論文と言ったところ(まさか学生がゴーストライターをして書いたとか?)。あと、後半の推敲・校正の甘さも気になる。