『ツンデレ相対性理論』

 正直あまり期待していなかったが良い意味で期待を裏切られた。マンガ仕立ての物理の本としてはかなりの良書だと思う。テーマを欲張らずに相対性理論だけに絞っていることと、マンガのストーリーに相対性理論を絡めてあるのが良かった。

 相対性理論による効果(相対論的効果)には、空間が縮んだり時間が遅れたり(質量が増えたり)といった感覚では理解不能でセンセーショナルなものが多い。しかし相対性理論の本質は、「均一な時空(時間と空間)を光が進む」という常識を逆転して、「光速が一定になるように時空が伸び縮みする」という考え方にある。時空が伸び縮みすることがまさに相対論的効果だ。言い換えるなら相対論的効果とは「光速度不変の原理」を貫くために時空が払うツケである。

 相対論は専門外なので確信を持って言えるわけではないけど、相対性理論の理解に重要なのは相対論的効果ではなく、「光速度不変の原理を時空の均一性より優先する」という考え方だと思う。この考え方を受け入れられれば一般教養としての(特殊)相対性理論は十分なのではないだろうか。(重力質量と慣性質量の等価原理も入れれば完璧?)

 ところが一般向けの物理の本には、様々な相対論的効果を、「こんなにいろいろ不思議なことが起こります」のように総花的な紹介に終始しているものが散見される。感覚と合わないSFのような話題を列挙するだけでは、相対性理論がバラバラの仮説の寄せ集めであるかのような印象を読者に与えかねない。(『相対論は間違っていた』系の本にはそういう雰囲気がある)

 それに対して本書では、さまざまな相対論的効果が「光速度不変の原理」に基づいて説明されている。このようなスタイルによって(特殊)相対性理論における「光速度不変の原理」の存在を印象づけている点が、本書の最大の特徴ではないかと思う。

 価格も500円と安いし萌本風味もそれほど強くないので、今時のマンガが嫌いでない方には気楽に読める相対論の本としてお薦めしたい。

ツンデレ相対性理論
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 欲を言うなら、登場人物の名前には、ボーアとホーキングの代わりに相対性理論にゆかりのあるポアンカレ、マッハ、ガリレイフィッツジェラルド、ミンコフスキー、ローレンツあたりを使って欲しかったかも。