藤子・F・不二雄 異色短編集

ここしばらく藤子・F・不二雄の短編集を集めていたのだが、今日ようやく『小学館文庫―藤子・F・不二雄〈異色短編集〉』を全4冊そろえることができた。
この『異色短編集』は大人向けの短篇を集めたもので、普通の家庭を描きつつも、絶望的であったり背筋の冷たくなるような結末である作品が多い。「藤子・F・不二雄ドラえもんを描いた人」という認識の人は、ぜひ短編集を読んでそのシリアスさに驚いてもらいたい。
藤子・F・不二雄の短編集は何度か出版されているがいずれも絶版になっている。小学館文庫の『異色短編集』も絶版ではあるが、他の版よりは入り易いようだ。ブックオフでもたまに置いている店はある。

私が『異色短編集』に納められている作品を最初に読んだのは、15年以上前に中央公論社の「藤子不二雄 全短編集」という電話帳のようにごつい版であった。当時私は中学生かそこらだったが、当時人気だった少年ジャンプ系のマンガよりも、藤子不二雄手塚治虫の作品ばかり読んでいた。『全短編集』が出た頃は、てんとう虫コミックス藤子不二雄作品はあらかた読んでいたので、自然に『全短編集』も購入した。当時は細かい点で意味の分からない作品も多かったが、大人社会の矛盾や悲哀に触れられるような気がして、何度も繰り返し読んだ。中学生の頃にこれらの作品に触れたことで、世の中の見方にずいぶん影響を受けた。おかげで同世代の間で浮いてしまうこともあったが、今ではそれも良かったと思っている。

今改めて読み直してみると、昔よりも共感をもてるようになっただけ作品のレベルの高さも分かるようになった。改めて藤子・F・不二雄という作家の偉大さに圧倒された。作品の多くは70年代から80年代にかけて発表されたものばかりだが、全然古さを感じない。高齢化社会、乳幼児遺棄、食糧難など、高度成長期のただ中でその先に起こるであろう問題を直視した作品を描いていたことには驚かされる。

藤子・F・不二雄は確かに「ドラえもんを描いた人」だが、子供向けの作家と決めつけて、「大人の我々には関係無い」ですませてしまってはもったいなさ過ぎる。より正しくは「藤子・F・不二雄 >> ドラえもんを描いた人」であり、ライフワークである「ドラえもん」と言えどもこの作家の一面でしかない(もちろん「ドラえもん」が最高の少年マンガのひとつであることに依存はない)。

もしあなたが既に大人なら、ベストセラー小説よりも何よりも藤子・F・不二雄の短篇作品を読むことお薦めしたい。やっと藤子・F・不二雄の奥深さがを理解できる年齢になったのだから。


ミノタウロスの皿 (小学館文庫―藤子・F・不二雄〈異色短編集〉)

気楽に殺ろうよ (小学館文庫―藤子・F・不二雄〈異色短編集〉)

箱舟はいっぱい (小学館文庫―藤子・F・不二雄〈異色短編集〉)

パラレル同窓会 (小学館文庫―藤子・F・不二雄〈異色短編集〉)