『貝と羊の中国人』

貝は貨幣、羊は遊牧民を指し、ひいては貨幣を重んじた殷王朝と遊牧と縁の深い周王朝をそれぞれ意味する。
本書は、タイトルが暗示するように歴史的側面から「中国とは何か」を大づかみで論じたものだ。教科書的に時系列で事実を並べるのではなく、漢字、語法、琉民、人口、英雄、領土、国名などの特定のテーマを軸に、中国人がたどってきた歴史を解説している。特に人口の変動についての考察はユニークだ。
社会が安定すると、耕地面積や農耕技術すなわち食糧生産能力が向上して人口が増加する。ところが、やがて人口増加が行き過ぎると食糧難が起こり、それによる社会不安が王朝の滅亡を引き起こす。現代でも中国は人口の最も多い国であるが、19世紀前半には当時の世界人口の3分の1を抱えこんでいたらしい。このときもやはり食糧難が起こり、自暴自棄になった民衆の民度は低下した。その結果、そこにつけこんだイギリスによるアヘンの大量流入を招くことになった。
このような観点で見直すと、暗記教科だと思われている歴史も実に生き生きとしてくる。学校で習う中国史では暗記以上は望めないが、本書からは人間社会のありようが見えてくる。まちがいなくお薦めの一冊。

貝と羊の中国人
貝と羊の中国人
posted with amazlet on 06.08.07
加藤 徹
新潮社 (2006/06/16)