『戸塚教授の「科学入門」』

今年の7月10日に惜しまれつつ亡くなった戸塚洋二博士のインタビュー、ブログ記事(『科学入門』)、講演(『宇宙と素粒子』)をまとめた本。戸塚博士は、2002年のノーベル賞受賞者である小柴昌俊博士の後継者であり、1998年にニュートリノ振動を観測した研究グループの責任者でもあった。
ノーベル賞の事情については「http://news.goo.ne.jp/article/nbonline/business/nbonline-173322-01.html?C=S」に詳しい考察がある。面倒なことに、全文を読むには登録が必要になる。)

戸塚教授の「科学入門」 E=mc2 は美しい!
戸塚 洋二
講談社
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インタビューでは、主に自身の学生時代から若手研究者時代を振り返って語られている。大学時代に勉強しなかったことについて「取り返すのに苦労された?」というインタビュワーの質問に

いや、結局取り返せなかったなあ。だからいま、死ぬ間際になって、もう一度勉強したいと思ってるんだ(笑)。

と答えられているのが印象的だった。

ブログ『科学入門』は病気で現場を引退されてから書きはじめられた「実験家の目を通した科学入門書」。太陽のエネルギーの話から、植物の形態、19世紀末の光の科学、太陽ニュートリノ、そして宇宙の進化、と内容は様々で、わかりやすい章もあればやや難しい章もある。(光の科学の章は、少なくとも高校物理を分かっていないと理解するのは難しいと思う。すらすら読むには大学の物理系学部3回生くらいの知識が必要かもしれない。)
そのことは本人も分かっておられたようで、夫人に「もし分からなくても、何かのきっかけになればそれでいい」と仰っていたらしい。実際、数式などは読み飛ばしても大筋は分かるように書かれているので、少々分からないところがあってもあまり気にせず、どんどん読み進めれば良いと思う。分からないところは別の詳しい本に当たればよいのであって、この『科学入門』の価値は、実験家が自然に向き合う姿勢を感じとれるところにこそある。

本書の最後には、2005年9月4日に光エネルギー加速器研究機構(つくば市)で一般向けに行われた『宇宙と素粒子』という講演が収録されている。わずか26ページほどだが、素粒子の概要から最近の研究について、そしてこれからの素粒子物理学について、とても分かりやすく語られていて感服した。(小林・益川理論についても触れられている。)僭越ながら、一般向けの講演としては最上級の上手さだと思う。