『「理系」の転職』

これは良書。ぜひ若い技術者に薦めたい。
「転職おすすめ本」かと思わせる書名だが、実は著者はさほど転職をすすめているわけではない。むしろ、転職するしないに関わらず、まずは今の職場で自分を高めることを目指せという。
ヘッドハンターである著者が転職をすすめないというのも奇妙な気がしたが、読み進めているうちに理由が分かった。要するに著者の望みは、「優秀な理系人材」が増えることなのだ。いたずらに転職を煽ってジョブホッパーを増やしても、ヘッドハンティングしたくなるような人材がいなくなっては意味がない。
そのため本書の大部分は、付加価値の高い人材がどういうものか、そしてそのような人材になるためにどうしたらいいのかについてのヘッドハンターからのアドバイスで占められている。下手なコンサルタントが書いたアドバイスの中には現場との解離に苛立ちを覚えることも少なくないのだが、元技術者の著者らしく、本書のアドバイスはいずれも納得のいくものばかりである。
実はこの手のアドバイスは一般向けの啓発本にも散見される。しかし「価値のある技術系人材」をよく知る専門家が技術者向けにまとめた本書はその密度・信頼性が非常に高い。技術者が自分の価値を高める方法を探るのに最初に読むなら本書だろう。

「理系」の転職
「理系」の転職
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辻 信之 縄文アソシエイツ
大和書房
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読んでいる途中、ふと漁業と海産資源の関係を連想した。つまり、今日の金のために稚魚を乱獲するのではなく、魚が大きく育って高値で売れるように漁場を育てるというやり方である。魚の立場としても、自分が食われるのは確かにイヤだろうが、乱獲で種まるごと絶滅するよりは、個体数を維持される方がよほどマシだろう。技術者の場合はハンティングされても取って食われるわけでは無い。自分の価値を高めてもらえるのだから大歓迎である。

個人的に、今後のことを色々考えていた時期だったので非常にためになった。これからがんばって大きく美味しく育つから、縁があったらぜひ一本釣りして頂きたい(笑)。