『生物と無生物のあいだ』

本書についてAmazonの書評で

これは福岡伸一氏の生物学に対する探求譚です。

と書いている人がいる。私も同じ印象を持った。
本書は、科学解説、生命科学史、個人の研究史のいずれを中心に据えるでもなく、それらを渾然一体にした書き方がなされている。特に後半の章はどちらかというとエッセー色が濃い。それゆえ内容に散漫さと物足りなさがあるのは否定できない。科学解説を期待すると拍子抜けするだろう*1
しかし同時に、著者の研究体験を軸に生命科学の全体像を綴った文章には、研究者としての探究心が素直に現れている。それも、楽天的な「科学サイコー」ではなく、生命現象に対するわび・さびと畏れを含みながらも著者を研究に向かわせる探求心を、流麗な文章の中に感じた。

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)
福岡 伸一
講談社
売り上げランキング: 250

*1:「生物と無生物の違い」については少ししかページが割かれていないので、「タイトルと中身が違う」と怒る人がいるのも無理もない気がする。どういういきさつでこのタイトルに決まったのだろう。