『医療の限界』

昨今のマスコミや法曹界、ひいては国民による医療従事者への批判に対して現役の医者による反論。
アマゾンの書評には「医者の弁解」だとの指摘もあるが、書き手が医師である以上医者側の視点なるのは無理からぬことで、読み手がそれを踏まえて読むべきだろう。毒にも薬にもならない一般論よりも現場の本音のほうがはるかに有益であると思う。
私自身は医療現場の実態を知らないので、内容がフェアかどうかは判断できない。しかし一読した限り、著者の主張は十分に合理的であるように感じる。なぜなら取り上げられている問題と同様の問題が、比較的身近な分野でも起こっているからだ。
例えばWinny裁判と医療過誤については、高度に専門化した技術を技術の素人である法律家が裁くことが妥当か、という議論がある。Winnyの判決に違和感を感じるソフトウェア技術者は多いと思われるが、医療従事者は医療上の過失致死事件に同様の感覚を感じているのかもしれない。
また、尼崎の脱線事故では、事故の直接的な原因は運転士の過失であるとしても、ダイヤ構成や社員教育と言ったシステム面の問題も厳しく批判された。同様に、看護士の不足や医局人事など、医療のシステム的な問題による"過失"についても医師・看護士個人に責任を押し付けることは批判されるべきだと思う。

批判的に読む必要はあるにしても、マスコミにあおられて医者や看護士にヒステリックに怒りをぶつける前に、必ず読んでおくべき本。

医療の限界 (新潮新書)
小松 秀樹
新潮社
売り上げランキング: 58350