森林は二酸化炭素を吸収しないか?

森林が二酸化炭素を吸収しないことは科学的に明らかなことで、科学技術立国を標榜する日本でこのようなことが白昼堂々と行われ、大新聞やNHKが報道するのだから、おもわず「内閣府さん、大丈夫ですか?」と聞きたくなる。

もちろん、森林は二酸化炭素を吸収しない。

一本の木が二酸化炭素を吸収すればその分だけ「太る」。物質を吸収するのだから、吸収した質量がどこかに行ってしまうということはない。そしてその木は生物であるからやがて枯死してその体は全部、二酸化炭素になる。

終始はゼロである。
http://takedanet.com/2007/08/post_d2e1.html

 前々から武田教授のこの意見には疑問がある。本当に森林は二酸化炭素の吸収に効果が無いのだろうか?
 上記の「森林は二酸化炭素を吸収しない。」「終始(収支?)はゼロである。」というのは、ある一本の草木の一生についてだけ見ればある程度正しい。また、老木と若木の世代交代が安定に起こっている古い森林についてもある程度正しい。なぜなら、枯れた木が二酸化炭素を放出する一方で成長期の若木二酸化炭素を吸収するからだ。なので「今ある森林を残しておけばどんどん二酸化炭素を吸収してくれる」というのは確かに間違いである。
 ここで「正しい」に「ある程度」とつけたのは、植物が枯死したときに必ずしも全ての二酸化炭素が大気中に放出されるわけではないと思われるからだ。
 草食の動物は植物の葉や実を食べ、植物の中に有機物の形で存在する炭素を取り込む。つまり炭素は大気に放出されることなく植物の体から動物の体に移動する。
 また、枯死して腐敗した植物の体の一部は腐葉土などの形で有機物のまま残る*1。これらのことから考えても、たとえ植物が枯死してもいくらかの炭素は大気中に放出されることなく動物の体内や土中に残る。

 もちろん長期的に見れば、動物の体内や土中の炭素も呼吸や腐敗などによって大気に放出される。これは炭素が地球上を循環している以上当たり前のことだ。
 しかし、温暖化の原因とされているのはあくまで「大気中に存在する二酸化炭素ガス」である。多くの炭素が二酸化炭素以外の形(たいていは固体だと思うが)で存在していればそれだけ大気中の二酸化炭素は減少し、温暖化への影響は軽減されることになる。それぞれの炭素原子は有機物や二酸化炭素などに化学変化を経て地球を循環するが、炭素全体の中で二酸化炭素以外の化合物が占める割合が大きく、または循環のサイクルの中で炭素以外の化合物である期間が大きくなれば結果的に大気中の二酸化炭素が減ることになる。


 先に述べたのは、「安定して存在する森林」の話であった。次に、緑化によって新たな森を作りだすことを考える。植物が成長する際には、光合成によって大気中の二酸化炭素が吸収されて有機物がつくられる。つまり、森林が存在しなければ二酸化炭素として大気中に存在していたはずの炭素が、有機物として地表に固定されることで温室効果と無関係な存在になる。木々が生長して生態系が安定した森林では成長期のように二酸化炭素がどんどん吸収されるということは期待できないが、先述のように炭素の貯蔵庫として働くことで大気中の二酸化炭素を減らすことができる。
 このことから、森林面積を増やすことが二酸化炭素の吸収に効果があることは明らかである。

 以上のことから、森林の増加・保守が二酸化炭素の吸収に効果が無いというのはやはり誤りと言える。


 問題は、大気中の二酸化炭素化石燃料の利用によって増加したことにある。これまで土中で液体(石油)や固体(石炭など)の形で存在していた炭素が大気中に放出されてしまったため、地球上を循環する炭素の総量が増えてしまった。
 化石燃料から放出されたことで急に増えた大気中の二酸化炭素を森林だけで吸収することは難しいだろうから、やはり何らかの形で化石燃料の使用を抑える必要はある。だがそれだけでは既に大気に放出された炭素は減らない。少しずつでも他の化合物の形で固定していく必要がある。
 工業的に炭素を固定する方法も研究されているが、やはり効果的なのは植物による固定であろう。植物による固定は自動的なので植物相が安定すればメンテナンスにかかる手間とコストは低下する。さらに、食料や生物圏の保全や災害防止などの効果も期待できる。

 以上、森林が二酸化炭素削減に無意味だとは思えない理由をつらつらと書いた。もっとも、植物による二酸化炭素の固定が定量的にどのくらいなのかは調べていないので、もしかしたら効率は低いのかもしれない。森林の保全二酸化炭素削減の主力にはなり得ないかもしれないが、決して効果が無いわけではない。また、温暖化以外の環境問題の改善とうまく組み合わせて活用すべきだろう。


 ちなみに、ちゃんと考えたわけではないが、葉からの蒸散による気化熱で地表面の温度を下げることもできるような気がする。この場合、蒸散した水蒸気がさらに温室効果を強める可能性もあるので微妙な気はするが。

*1:土中の有機物を「腐植」と呼ぶらしい