『「技術者力」を鍛える』

企業に勤める技術者は必読!と言いたいくらいお薦めである。定価1300円と価格が安めなのも良い。
全体は3つの部に分かれており、第1部では日本企業の現状の解説、第2部では日本企業の強みの分析、そして第3部では今後の技術者の取るべき道が提案されている。
実を言えば、第3部の提案は充実しているとは。また、その提案が下っ端技術者に負担を求めるものであり、経営層に何の負担も求めていない点には反感を感じた。しかし、それを差し引いても、第1部および第2部の日本企業の特性と現状の分析は非常に参考になる。

著者の分析によると日本企業の多くは「少量多品種生産・なんでも対応」型であると言う。この型は、技術営業や技術者に消耗戦という犠牲を強いるにもかかわらず利益が出にくい。海外では「やってはいけない」と言われる業態である。
それなら欧米式の利益最優先に切り替えれば業績は良くなるかと言うと、ことはそう簡単ではない。

日本企業で働く人々の頭の中には、顧客満足最優先がプログラムされているわけで、これを消すことはできない。

私のいる会社でも例えば「お客さんに頼まれたから仕方がない」とつい引き受けてしまうことは多い。同じようなことは多くの日本企業でも起こっているのではないだろうか?
つまり「顧客満足優先」は日本企業の性質であるから、無理にそれを曲げて欧米の真似をしても結局真似しきれずに失敗する。なので、利益を挙げる工夫はしつつも、今までの「顧客満足優先」主義を続けながら上手くいく方法を探るべきである。
例えば徹底した高品質、さらなる顧客満足を追求することを強みにする。顧客と密に連携して問題解決を提供することが提案されている。この案そのものには異論は無い。反面、下っ端の技術者ばかりに負担を提言には反感を禁じえない。
経営層に関する記述は極めて少なく

日本の経営者の大きな役割は、消耗戦の中で、放置しておけばバーンアウトして(燃え尽きて)しまう社員、とくに技術者たちのモチベーションと技術をいかに維持、高揚させる環境づくりをするかにある。

くらいだろうか。コンサルタントである著者にとって経営者に対して厳しいことを書くことは抵抗があるのかもしれない。残念。