『キリスト教は邪教です!』

神は死んだ!
アヤシゲな宗教本の類かと思ったら、ニーチェの『アンチクリスト』の現代訳である。しかもこれが面白い。
本書を読んで、性に対する意識や善悪二元論悪平等など、現代日本人の中には思った以上にキリスト教的価値観が存在することに気づかされた。

日本はキリスト教徒の多い国では無いが、意外とキリスト教的な価値観は浸透している。
例えば、性をタブー視するのは近代西洋思想、つまりキリスト教の特徴である。キリスト教ではマリアの懐胎には性行為が無かったことになっている。それに対して、古事記イザナギイザナミの国作りのシーンにはそのものずばりの記述がある。これ以外にも、かつての日本は現代に比べて性に対しておおらかな国であったようだ。明治以前の日本で、公衆浴場での混浴や農村部での多夫多妻*1などが容認されていたことからもそれが伺える。
しかし明治維新および第2次世界大戦の際に西洋の思想が入ってきて、日本人の意識も変わった。あたかも知恵の実を食べたアダムとイブがイチジクの葉で局部を隠すようになったように、「西洋文明」を受け入れた日本人にも性をタブーとみなす意識が強まったかのようである。

本書でニーチェキリスト教邪教だの病気の一種だのとボロクソにけなしている。哲学者であるニーチェにとって、「神が全て」とみなすことで思考停止を招く宗教は我慢がならないようだ。その一方で、仏教については「現実を見て考える」健全な宗教(哲学)であると好意的に書いている。もっともニーチェの言う仏教はおそらくは釈尊の説いた原始仏教のことで、その変形である大乗仏教や日本仏教ではないのだろうが。

本書は人によっては刺激が強いので注意が必要だが、無宗教を自認する人なら非常の面白く読めると思う。宗教なんかくだらないと思っている人にこそお勧めしたい。ニーチェがそのくだらなさの理由を痛快に教えてくれる。


余談ながら、本書中で『ツァラトゥストゥラ』が『ゾロアスター』のドイツ語読みであることを知った。てことは『ツァラトゥストゥラかく語りき』もしくは『ツァラトゥストゥラはこう言った』は『ゾロアスターはこう言った』ってことだったのか。急に読みたくなってきた。

*1:都市部や武士階級は違うけど