あいも変わらず年金騒動がかまびすしい。社会保険庁の怠慢がどうとか、管理がずさんだとかはある程度は真実だろう*1。お役所なので。
しかしこのところの報道はどれも無駄に国民の不安を煽り過ぎな気がする。もっと言うと民意操作のにおいがぷんぷんする。つまり参院選のための演出じゃないのかということ。
マスコミの報道を見ていると、「けしからん社会保険庁」を厳しく律する「国民の味方、安部自民」という構図を作りあげたいらしい。だとすれば、できるだけ社会保険庁を極悪に演出するのが効果的だろう。芝居を盛り上げるために、「あなたの年金が無くなる！」とわざわざ国民の不安を煽り、正義の味方、安倍ちゃんマンが颯爽とそれをやっつけるという筋書きである*2。
無駄に国民を不安にした上でそれを解決する振りをするのだから、ある意味自作自演に近い。
この三文芝居がこれほど効果的なのは、この数年こそが、団塊世代の年金に対する関心が高まる時期だからだ。2007年問題といわれるように、今年から大勢の団塊世代が定年退職を迎える。退職したばかりの人・じきに退職する人にとって年金は重要な関心事であり、年金問題への取り組みが選挙に与えるインパクトも非常に大きい。団塊世代は人口が多く、投票率も比較的高いので選挙対策としてこの層を狙うのは理にかなっている。効果的なタイミングで効果的なテーマでこの層の票を獲得にきた点はさすがに上手いと言えるだろう。
どうせ選挙が終わったら、「やっぱり無理でした」とか「公的資金注入（増税）」でうやむやにしてしまうに違いない。かつてうっかり「無理です」と口を滑らせた大臣もいたが、彼らはむしろ正直だったのかもしれない。
残念なのは、野党まで同じ舞台に上がってしまったことだ。自民党の筋書きで舞台に上がっても、三枚目か噛ませ犬か雑魚キャラ役しか演じさせてもらえないのに。もっとも、芝居の観客数がここまで膨らんでしまっては舞台に上がらないわけにもいかないのだろう。マスコミが芝居のＣＭしかしないのだから仕方が無い。
テレビなどでは、「支払い履歴の確認に行ったら、払ったはずの記録が消えていた」人が映され、コメンテーターが社会保険庁は酷いところだといった発言をすることが多い。しかし、その人が本当に払ったとどうして分かるのだろうか？領収書があれば別だが、その人の自己申告を信用する根拠はあるのだろうか。本人の記憶と記録が食い違う原因には、本人の勘違い、申請の際の記入ミス、事業者が支払いをしていなかった、など様々な可能性がある。さらにこの騒動に紛れて、あわよくば余分に年金を引き出そうとする輩もきっといるだろう。
そういう可能性を無視して、最初から社会保険庁を悪者に決め付けるような報道はいかがなものか。社会保険庁のヒールっぷりを強調したいのだろうか。
今回の騒ぎでひどい目にあっているのは末端の職員である*3。そもそも今回の問題は、制度の欠陥と国民側の年金に対する意識の低さに大きな原因がある。社会保険庁の職員は年金制度のＰＲはそれなりにはしていたし*4、もちろん制度の欠陥を解決する権限などない。公務員として決まり通りに業務を遂行してきたに過ぎない*5。それがある日突然、社会の悪者に仕立て上げられ、総理大臣の思いつきで説明会やら電話相談やらに振り回されるようになった*6。
いずれにせよ、騒動が続いていて職員も疲れているので、対応もぞんざいになりがちだと思われる。急ぎでなければ、騒ぎが収まってから行った方がましな対応を受けられるだろう。
まだ年金を受けていない人は、今あわてて確認に行くかなくても、受給が始まる時に記録の確認が行われる。その時のために、今のうちに年金手帳や領収書を探しておいたり、勤務した会社の名前などを記録しておくほうが賢い。
既に年金を受けている人も、５年の申請期限が撤廃されたので期限切れで支払い記録が無効になることは無くなった。ただし、生きているうちに受け取らないと意味が無いので早めに行く意味はあるだろう。
ちなみに、下っ端の公務員が年金を出し渋っても民間企業のように自分の給料に反映されるわけではないので、あえて申請を却下する理由は無いと思われる。この点は公的機関であるメリットと言えるだろう。安易に民営化したら、確認の難しい記録はどんどん捨てられることになるかも知れない。
