年金は消えてない

社会保険事務所で働いている身内からいろいろ聞かされたこともあり、最近の的をはずした(と言うか悪意を感じる)報道を苦々しく思っていたのだが、やっとまともな意見をみつけた。

テクノロジー : 日経電子版
ここ1カ月ほどでにわかに政局、参院選の最重要テーマとなった「宙に浮いた年金記録5000万件」であるが、この問題を巡る議論を聞いていると、いかに政治家や官僚が社会インフラである情報システムと、それにまつわる業務処理に無知であるかが明解になった。

マスコミの無知も。いやマスコミの場合は悪意ある捻じ曲げと言うべきか。

なぜ一意なIDを付けなかったのか? - カレーなる辛口Javaな転職日記
マスコミとしては,理屈も分からずに「国民総背番号制」を批判してきた手前、「国民総背番号制にしなかったことが原因だ」なんて口が裂けても言えないのでは。

かわりに年金が「消えた」「けしからん」と騒いで国民を煽っている。乗せられてはいけない。

テクノロジー : 日経電子版
なんとなく基礎年金番号導入が、宙に浮いたきっかけであるかのような誤解を生む表現が多いように感じる。

基礎年金番号が原因であるというのはまったく話が逆で、基礎年金番号が導入された平成9年以降の記録が見付からないということはまず無い。問題になっているのはそれ以前の記録である。

なぜ一意なIDを付けなかったのか? - カレーなる辛口Javaな転職日記
残念だけど名前は一意ではなく,漢字表記でも同姓同名の別人はいる。漢字が異なっているけど読み方は同じ人ならもっと多いだろう.逆に漢字が同じだけど読み方の異なる別人だっているかもしれない.しかも結婚や離婚などで名字が変わるのは珍しくないときている.もちろん誤入力もありえるし,さらに厄介なことにパリティビットさえないので誤入力を検出するのはまず不可能だ。
こんなあてにならないものをコンピューター処理のためのIDに使うというのは、正気の沙汰ではない.もちろん頻繁に変更されうる電話番号や住所も論外です.

まったくその通り。これ以外にも職業が変わるときに国民年金と厚生年金の切り替え手続きが必要になる。(正社員なのにパート扱いにして厚生年金の支払い義務を回避したりしている職場もある。その場合は国民年金。)さらに言うと、昔は年金というものに現実味が無かったせいか、書類をいいかげんに記入する人も結構いたらしい。ちなみに、これらの変更は個人がその都度届ける必要があり、ちゃんと手続きを行ってきた人ももちろんいる。
切り替えをきちんと行っていれば、基礎年金番号を導入した際にスムーズに統合できたはずなのだが、実際には切り替えの度に新しい年金手帳を受け取る人も多かった。こうして記録がばらばらになってゆく。この問題を改善するために基礎年金番号が導入され、一定の成果を挙げている。

記録がばらばらにっていると、ある個人の支払い記録を探し出して時系列に並べるのは行方不明者の足取りを追うようなもので、非常に手間がかかる。いつ結婚|離婚をしたか、何年何月からどこで働いていたのか、正社員だったのかパートだったのかなどを順を追って確認しなければならないのだから。もちろん同姓同名や誤記入が無いことも確認しながらである。
データが全て電子化されていればある程度までは自動照合もできるだろうが、紙の書類やマイクロフィルムにしか記録がない場合も多いと聞く。それに、たとえ電子化されていたとしても記録が特定の個人のものであるかどうか、本人と当時の事業者に個別に確認をとらないといけない。つまり、本人を自動的に照合する方法が無い以上、ITだけでは解決できない。結局職員があちこちに連絡して照合することになるが、そのための郵便代・電話代だけでも相当な額になることは想像に難くない。

このような調査を5000万件にわたって行うのは現実ばなれしている。実行したとしても莫大な費用がかかるのなら、いっそ申し出て来た人に漏れなく支給した方が良いのではないだろうか。(でも財源が無いから税金を投入?)

今回の「宙に浮いた年金記録5000万件」の原因は明らかに制度設計のミスおよびそれを放置してきたことにあって、必ずしも社会保険庁の末端業務がずさんだったからではない。末端職員の多くはいずれ今回のような問題が起こるだろうことは分かっていたが、監督省庁や政治家は放置してきた。
(ただし「本人が保険料を支払ったにもかかわらず、データベース上に記録が残っていないというケースが、かなりありそうだという点」テクノロジー : 日経電子版については、これが本当だとすれば、末端にも責任があるかもしれない。)
ちなみに、年金が目減りしたのも厚生省の投資の失敗や天下り先を作るのに使われたからで、社保庁の末端職員がネコババしたわけではない。お近くの社会保険庁に苦情を言いに行くより、次の選挙で真剣に投票するほうが賢明。

もし人件費、システム構築、オフィス代、調査費、諸経費等々、5000万件で1件当たり3000円かかるとすると1500億円、5000円なら2500億円。いろいろ計算するだけで、とてつもない数字になってしまう。与野党ともにどこまで真剣に考えたのだろうか。

いうまでも無く考えているはずも無く、いつも通りの口からでまかせだろう。どうせ選挙が終わったら撤回するかそらっとぼけるに決まっている。