『近くて遠い中国語』

中国語の歴史や文化について広く紹介した本。特に、中国語について日本人が誤解しがちな要素について、著者の体験を交えて分かりやすく解説されている。さらに簡体字の歴史や、中国語の発音などについてもバランスよく、読みやすくまとめられており、それでいて実に面白い。
日本人が中国語に抱く誤解の一つには、同じ漢字文化圏なのだから、筆談すればなんとか意思疎通できるだろう、というものがある。実際に私もそう思っていたクチだが、本書を読んでそれが大間違いであることを思い知った。見た目が同じ単語でも日中で意味がまったく違う場合がある。「娘」「手紙」などという簡単な単語でさえも誤解が起こり得るのでは、危なっかしくて筆談などできない。*1
こういった外見が同じで意味の違う単語はクイズのネタとしては楽しいが、実際に使うとなるとかなり面倒な存在だろう。両方の言語を使う人にとっては言語モードごとに頭の中で言葉の意味を切替えないといけないのだから、英単語のように外見の全く違う単語を覚えるより厄介そうだ。だとすると、中国から日本に来た部下も日本の漢字に苦労しているのだろう。

近くて遠い中国語―日本人のカンちがい
阿辻 哲次
中央公論新社 (2007/01)
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*1:ちなみに「娘」は「おばさん」、「手紙」はトイレットペーパーを意味する