草スポーツ的仕事

書評 究極の鍛錬(ジョフ・コルヴァン) – R-style

 大抵の企業は、仕事に関する簡単な知識を伝え、あとは現場で覚えていくしかない。「習うより慣れろ」だ。それはゴルフを始めたばかりの初心者に、クラブセットとボールを与え、「じゃあ、ホール回ってきて。アンダーパーで」と言っているのに等しい。

 結局、見よう見まねでホールを回ることができるようになっても、その次の一手がまったく見つからない。結局できることと言えば、そのホールを周り続けることだけだ。そして「そのホールだけが異様に得意な人」ができあがる。それはつまり、「転職したくてもできない人」ということだ。

 実際まわりを見ていると、まるで、「練習をしないで試合ばっかりやってる草野球*1」みたいな働き方をしている人が少なくない。「何年もこれで飯食ってきたんやー」と言うベテランでも、入門書にも載っているごく初歩的なことすら知らなかったりして驚かされることがある。こういう人たちはおそらく、若い頃に教わった知識や技術をただ使いまわすだけで幅を広げることも理解を深めることもしてこなかったのだろう。
 ついこの間も社内有数の回路技術者でございという中堅社員が部品のデータシートをろくに読まずに回路を設計していることを知って驚いた。その人自身が何度も回路設計で採用してきた部品なのに、「このICを○×モードで使うにはどうしたらいいの?」とかソフト担当の自分に訊いてくるとは…(ちなみに自分が調べてみたら、この質問に対する回答を見つけるのに1分もかからなかった。部品のデータシートは英語ではあるがたった数ページしかない。)。*2


 思うに、こういう低いレベル(失礼!)にいつまでも留まっている偽ベテランが重ねた年数は「経験」とは呼ばない。それどころか悪いクセや勘違いが年数の分だけ強化されることもあるので、むしろ「有害な経験」である場合が少なくない。
 やっかいなのはそういう人に限って、専門書を読んだりセミナーに参加する人を「頭でっかち」と揶揄してせせら笑ったりしがちなことだ。しかも彼らは長年会社に居続けてきていてそれなりの地位に居たりするものだから、会社全体の価値観が学習や練習を軽視する方向に向かいやすい。そうやってますます草スポーツ的な企業風土が強まっていく。
 

*1:草サッカーでも草ラグビーでも可

*2:他にも「プログラミング歴20年」にも関わらず「ハッシュリスト」「デザインパターン」が何なのかを知らない人がいたり…。