外向けの仕事

どの業界でも、生涯職人でいたいと思っている人に無理にマネジメントさせるのは害が大きい。

おそらく、プロジェクトが大きすぎる場の中では、そうなるのだと思う。とても全体までは意識は回らない。自分の仕事の範囲をきっちりと決めてもらいたい。その限定された中で最大限の努力がしたい。そして、目標とはプロジェクトの成功や完成度ではない。参加できたこと自体に充実感あり、自分が担当した仕事に対する満足感を求めるのだ。つまり、目標は「上手くなること」だという。これは、大いに理解できる。そういった志は、いかにも職人気質だし、ある意味「武士道」でもある。僕は好きだ。もしかしたら、僕もそのタイプだと思う。
 ところが、研究者の場合、不具合はある。そういう人材は院生や助手のときは、大変良い働きをするのだが、研究者として独り立ちしたときに困る。自分の内に完成度を求めるため、外向けの仕事として方向が定まらないのだ。


http://blog.mf-davinci.com/mori_log/archives/2008/04/post_1827.php

その研究者が年功序列で教授になって研究室の責任者になると、その研究室のメンバーは本当に苦労することになる。外部で評価される研究テーマを設定することもできないので予算を獲得することができないし、マイナーすぎるテーマをやらされるスタッフや学生は学会などで発表しても反応が得られないのでモチベーションがどんどん下がる。結局、教授と同じように自分の達成感だけで満足を得られるタイプの人しかついていけなくなる。他者から評価されない仕事を続けることに耐え切れない人は卒業まで我慢して全く別の分野に移るか、ひどい場合は途中で退学してしまうこともある。実際そういう理由で理系学部から非理系職に就職する学生も、退学してしまった学生もナ何人も見てきた。
このように外に目を向けて仕事をするのが苦手な人がマネジメントに関与すると後進に被害が拡大する。しかし現状では年功序列のせいで本人の希望や適正とは無関係に自動的にマネジメント職に就くことも少なくないようだ。そういう場合でも、大抵は努力によってそれなりにやっていけるようになるのだろう。だが残念ながら中にはどうしても出来ない人もいるように見える。
このような(良く言えば)職人的な人がマネジメントに関わらなくてすむようなキャリアパスを用意できないものだろうか。当人のためだけでなく業界および後進の育成という意味でもそれが望ましいように思う。